No. 119
ネイチャー・アクアリウムの世界

 クリニック待合室に水草水槽がお目見えしてから早いもので20年たちました。水槽を設置した頃、新潟にあるADA(アクアデザインアマノ)本社にお邪魔したことがあります。ネイチャー・アクアリウムの創始者であり、世界的に有名な写真家、天野尚さんの拠点でした。ちょうど、アマゾン探検家というような格好の天野さんが若い方々にレクチャーをしているところでした。天野さんは、8年前に61歳の若さで急逝されましたが、その遺志は世界中に引き継がれています。

 水草の表面からは、光合成によって酸素が小さな気泡になって発生し、水に揺れきらめいています。水槽内のいきもの(魚やエビ・微生物)はこの酸素で呼吸し、水草はいきものが放出する二酸化炭素で再び光合成を行って酸素を放出します。この水槽の中では、いきものが相互に関係し合いながら命の循環を繰り返しています。

 色鮮やかな水草の緑。その水草から途切れなく放出される気泡。そして、その自然の一部を切り取ったかのようなゆれる光の舞台で気持ちよく泳ぐ魚たち・・・。水を介して造り出される美しい自然のハーモニーが、水槽という限られた空間の中で再現されています。これがネイチャー・アクアリウムです・

 緑色の世界に水音がしている場所に身を置くと、なんとなくホッとする。そんな体験をされたことありませんか?「水」・「光」・「緑」は、私たちの心を癒やしてくれる、「癒し効果」があります。また水草からは酸素の泡が立ち上り、マイナスイオン効果もあるといわれています。ネイチャー・アクアリウムは、人々を癒してくれる最高の素材ではないでしょうか。

ネイチャー・アクアリウムに必要なものは、太陽に近い光、二酸化炭素、そして水を活性化する善玉のバクテリアです。また石や流木と水草のレイアウトは、大自然をイメージし、侘び寂びの心を取り入れたりと、かなり奥が深いところがあります。ネイチャー・アクアリウムは単に魚を飼うための水槽ではなく、小さな生態系の再現を「水槽」という限られたスペースで行うことをめざしています。

 待合室が、人と”小さな生命”とのふれあいの場となり、見る人の心と身体を癒やしてくれれば幸いです。水と光と緑が織りなして、見ているだけで安らぎと癒し効果を体験することできると思います。