近年、当院の患者さんが転倒骨折し緊急入院となって,入院先病院から電話照会が入るケースが増加しています。高齢化による筋力低下の影響もありますが、飲んでいる薬の影響も大きいのではないかと考えられます。今年になってから7名の方が、大腿骨骨折、脊柱圧迫骨折、前腕骨骨折、足の骨折をされていますが、このうち4名の方が睡眠薬あるいは精神安定剤を服用されていました。ベンゾジアゼピン系よりも非ベンゾジアゼピン系の方が筋弛緩作用が弱いので転倒リスクが少ないと言われていますが、あまり関係ないようです。転倒、骨折は夜間だけでなく、日中でも起こっています。このことから、作用時間が過ぎても、薬の影響がずっと残っていると考えられます。
特に大腿骨骨折や脊椎圧迫骨折を起こすと、手術や長期間の入院生活が必要となり、筋力低下や認知機能低下を起こし、最悪の場合、寝たきりになることもあります。
こういう訳でクリニックの診察では、睡眠薬を飲むのは止めましょうと常々話しておりますが、なかなか止められず他の病院でも頂いてくる患者さんもいます。
高齢になるほど睡眠は浅くなり、ぐっすり眠ることが難しくなっていきます。
これは睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌が、加齢と共に減っていく影響です。
確かに睡眠時間の不足は、免疫力の低下や老化の進行を招くので、改善すべき問題ではあります。仕事が忙しくて睡眠時間が取れないというなら、対処すべきです。しかし、ここまで頑張ってきて、今では追われるような仕事をしていない高齢者には、時間はたっぷりあるはずです。疲れたり、眠くなったら眠れば良いのです。
「夜は眠らなきゃいけない」という呪文からは解放されましょう。昼間に眠くなったら、昼寝をすれば良いのです。ただし生活のリズムが昼夜逆転にならないように、昼寝は1時間くらいまでの短時間にとどめて下さい。
精神科で広く応用されている「森田療法」においても、「原則、眠ろうと思うと余計に眠れなくなるので、無理に眠ろうとしない」ことを推奨しています。
睡れない事よりも、眠らなくてはいけないというストレスの方が、よほど心身に悪影響を与えてしまいます。睡眠薬を飲むくらいなら、眠らなくても全然OKなのです。
ただし要介護高齢者の場合、例えば同居者の夜間介護の負担を減らすために睡眠薬が必要なケースなどもあるとは思います。そういう場合は、少しでも安全な薬への見直しをしていきますので、ご相談下さい。